水泳連盟情報
競泳日本選手権

 月刊水泳 抜粋記事  


第75回日本選手権におけるレース分析
=平泳ぎ種目について=
医・科学スタッフ 岩原文彦・清田隆毅

 

1 はじめに

 平泳ぎ種目の優勝者は、予選から世界に通用する好記録をマークした。  ここでは、日本新記録が樹立された決勝レースを対象とし、過去のレースとの比較を中心にレース内容の分析を行ない、選手の泳ぎの特徴及び変化を把握することを試みた。

(1) 男子100m平泳ぎ

  男子100m平泳ぎは北島選手が昨年度のベストタイム(1分02秒75)を予選(1分02秒10)から上回るレースを行い、準決勝、決勝とさらに記録を更新し好記録で優勝した。また、2位 の林選手(1分01秒51)もバルセロナ・オリンピックで記録した自身の持つ従来の日本記録を8年ぶりに上回った。この両選手の1999年と2000年の決勝レースの分析結果 を表1に示した。レース展開としては1999年は75mまで北島選手が先行し、ラスト25mで林選手が逆転し勝利した。
 2000年は、北島選手が先行し、75m通過の時点までは1999年とほぼ同じタイム差(0.15秒)であったが、その後北島選手がその差を守りきり0.1秒差で勝利した。前半の50mの通 過時間が1999年とほとんど変わらないことから、両選手の記録の向上は後半50mの時間の短縮によるものであった。特に北島選手においては1.28秒もの時間短縮が認められた。  前年度と比較して両選手ともにスタート局面を除く4局面で所要時間の短縮が認められた。北島選手は後半ストローク局面 (0.87秒)とフィニッシュ局面(0.32秒)の2局面において1.19秒短縮していた。これはトータル記録の短縮(1.34秒)の約90%を占めていた。
 また林選手はスタート局面において0.13秒遅れたものの、前半ストローク局面 (0.29秒)と後半ストローク局面(0.36秒)の2局面で大きく所要時間を短縮しており、この結果 がトータル記録の短縮(0.52秒)に結びついていた。  両選手ともストローク局面 の所要時間の短縮が記録の向上に大きくつながっていたことから、ストローク頻度及びストローク長の面 から分析を行なった。ストローク頻度及びストローク長の変化を図1に示した。北島選手は昨年と比べると前半のストローク頻度が著しく減少し(60.5→53.2)、一方ストローク長は著しく大きく(1.59→1.81)なっている。また、後半のストローク頻度は昨年とほとんど変わらずストローク長は大きくなっている。
 したがって前半ではストローク頻度を低下させつつも、ストローク長を伸ばす効率のよい泳ぎを行うことで、後半のストローク頻度を維持しつつストローク長を伸ばすことができたことが記録更新の要因の一つと考えられる。
 林選手は北島選手と同様に前半のストローク頻度は低下しているものの、ストローク長を伸ばしていた。しかし、後半は北島選手と異なり、ストローク長は低下しつつも、ストローク頻度を大幅に上げることで記録を短縮している。
 北島選手が大幅に記録を向上させた要因としては、テクニック(スムーズな重心の移動や水のキャッチ)の向上と昨年からの課題であった体力づくり(主に後半でも的確な動作のできる筋持久力)が身についたことが考えられる。

表1 100m平泳ぎにおける北島選手と林選手の通 過時間及び各局面の所要時間


男子
100m平泳ぎ
通過時間 スタート
局面
ターン
局面
フィニッシュ局面 前半
ストローク局面
後半
ストローク局面
25m 50m 75m 100m 〜15m 45−60m 95−100m 15−45m 60−95m
北島康介選手
1999年
2000年

13.08
13.21
0.13

28.85
28.79
−0.06

45.21
44.64
−0.57

1.02.75
1.01.41
−1.34

7.04
7.08
0.04

9.12
8.96
−0.16

3.47
3.15
−0.32

18.75
18.71
−0.04

24.38
23.51
−0.87
林享選手
1999年
2000年

13.31
13.51
0.20

29.16
29.11
−0.05

45.36
44.78
−0.58

1.02.19
1.01.51
−0.52

7.04
7.17
0.13

9.11
9.01
−0.10

3.25
3.19
−0.06

19.19
18.90
−0.29

23.60
23.24
−0.36


(2) 女子100m平泳ぎ

 女子100m平泳ぎは田中選手が予選から自身の持つ従来の日本記録を1秒近く上回り、決勝では1分07秒27という世界歴代2位 の記録で優勝した。田中選手の1999年と2000年の決勝レースの分析結果を表2に示した。
 昨年の日本記録を樹立したレースと比較するとスタート、前・後半ストローク、ターン及びフィニッシュの全局面 において所要時間の短縮がみられた。前半の50mにおいて0.40秒、後半の50mで1.19秒の短縮がみられ、後半の記録の短縮は全体(1.59秒)の75%を占めていた。
 また、後半ストローク局面で0.75秒の短縮がみられ、これはトータルの短縮時間の47%に相当した。したがって、田中選手の記録の向上はすべての局面 の所要時間短縮によるもので、特に後半のストローク局面の所要時間の短縮が大きく貢献していたと考えられる。
 田中選手の100m平泳ぎのストローク頻度及びストローク長の変化を図2に示した。昨年と比べると前半のストローク頻度が著しく減少し(57.5→51.8)、一方ストローク長は著しく伸びて(1.48→1.67)いる。また、後半のストローク頻度も減少し(55.9→54.6)、ストローク長は伸びて(1.43→1.50)いる。田中選手は、前・後半共にストローク長を大きく伸ばすことによって記録を短縮していることがわかる。
 また昨年は、ストローク長、ストローク頻度ともに前半よりも後半の方が減少していたが、今年は予選から決勝まですべてのレースにおいてストローク頻度が増加していた。以上のことより、後半の記録の大幅な短縮は、北島選手と同様に、より効率のよい泳ぎを前半に行うことができたことや筋持久力の向上により、後半のストローク頻度とストローク長を向上させることが可能となったためと考えられる。

表2 100m平泳ぎにおける田中選手の通 過時間及び各局面の所要時間


女子
100m平泳ぎ
通過時間 スタート
局面
ターン
局面
フィニッシュ局面 前半
ストローク局面
後半
ストローク局面
25m 50m 75m 100m 〜15m 45−60m 95−100m 15−45m 60−95m
田中雅美選手
1999年
2000年

14.76
14.67
-0.09

32.32
31.92
−0.40

50.14
49.20
−0.94

1.08.86
1.07.27
−1.59

7.91
7.75
-0.16

9.91
9.67
−0.24

3.56
3.37
−0.19

21.12
20.87
−0.25

26.36
25.61
−0.75


(2) 女子200m平泳ぎ

 田中選手は予選から自身の持つ日本記録を上回り、準決勝で2分24秒台という世界でもハイレベルな記録をマークし、決勝では2分24秒12という世界新記録(2分23秒64)まであと一歩と迫る世界歴代2位 の記録で優勝した。田中選手の200m平泳ぎのベスト記録は、1998年の日本選手権の決勝においてマークされていることから、その時のデータと比較を行なった。  田中選手の1998年と2000年の決勝レースの分析結果を表3に示した。一昨年の自己ベスト記録を樹立したレースと比較すると、全局面 において所要時間の短縮がみられた。200m平泳ぎにおいても理想的なトレーニングを積んできたことが推測され、総合的身体能力およびストローク技術の向上によってパフォーマンスの向上ががなされたことがうかがえる。  また、前半の100mにおいて0.87秒、後半の100mで1.97秒の短縮がみられ、後半の記録の向上が全体(2.84秒)の69%を占めており、後半の泳速の低下を抑えられたことが大幅な記録の短縮につながった考えられる。  田中選手の200m平泳ぎのストローク頻度及びストローク長の変化を図3に示した。一昨年と比べるとすべての局面 においてストローク頻度が著しく減少し、一方ストローク長は著しく大きくなっている。100m平泳ぎと同様にこの種目でも、ストローク長を伸ばすことによって記録を短縮させている。  また、田中選手は局面2においてストローク長を大きくして、効率の良い泳ぎにより疲労の蓄積を抑えることにより、局面 4においてストローク頻度を増加させて泳速の低下を防いでいる。これは、日ごろ目標設定を明確にし、トレーニングを行っているであろう。  この200m平泳ぎにおいても100m平泳ぎと同様に、技術面の向上からストローク長が伸び、より効率のよい泳ぎを行うことができたことや主に筋持久力の向上から、後半の記録の大幅な短縮に繋がったものと考えられる。

表2 100m平泳ぎにおける田中選手の通 過時間及び各局面の所要時間


女子
200m平泳ぎ
通過時間 スタート
局面
ターン
局面の
合計
フィニッシュ局面 ストローク局面
1
ストローク局面
2
ストローク局面
3
ストローク局面
4
50m 100m 150m 200m 〜15m 計45m 195−200m 15−45m 60−95m 110-
145m
160-
195m
田中雅美選手
1999年
2000年

33.67
33.31
-0.36

1.11.20
1.10.33
-0.87

1.49.10
1.47.25
-1.85

2.26.96
2.24.12
-2.84

8.14
8.00
-0.14

31.26
30.38
-0.88

3.63
3.46
-0.17

21.95
21.86
-0.09

27.23
26.90
-0.33

27.38
26.75
-0.63

27.37
26.77
-0.60

まとめ

(1) 男子100m平泳ぎでは、前半のストローク長を伸ばすような効率のよい泳ぎにより、後半のストローク頻度とストローク長を向上させることが可能となったことが記録向上の大きな要因と考えられた。
(2) 女子100m平泳ぎでは全局面において所要時間の短縮がみられたが、中でもストローク長の増加と後半のストローク頻度の増大よる泳速度の向上が記録の短縮に貢献した。
(3) 女子200m平泳ぎでは、レース全般を通じて効率の良い泳ぎでストローク長を伸ばして泳速の向上が図られ、特に後半の泳速の低下を抑えられたことが大幅な記録の短縮につながったと考えられた。

(日本体育大大学院)
(セントラルスポーツ研究所)

 


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